《感染症や疾患における自然免疫細胞の機能に関する研究》

 

 私たちの免疫系は感染生物の種類によって,異なる免疫応答が誘導されます(Kasamatsu et al., 日本医真菌学会雑誌. 2022).

 

 好酸球は寄生虫感染やアレルギー反応に代表される2型免疫応答で重要な役割を担う免疫細胞です.小腸には多くの好酸球が存在していますが,その役割はよく知られていませんでした.私たちはマウスの小腸には特殊な好酸球がいることを発見しました.この好酸球の役割を調べたところ,寄生虫に対する免疫応答を抑制していることが分かりました.また,この免疫抑制型好酸球の分化には芳香族炭化水素受容体経路が必須であり,加齢とともに好酸球が増加すること、芳香族炭化水素受容体を活性化する物質を食べさせると,この免疫抑制型好酸球が増加することも分かりました.これらの知見から,この抑制性好酸球に着目した食物アレルギーの新しい治療法開発につながる可能性があります(Kasamatsu et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2022, 第51回免疫学会総会ベストプレゼンテーション賞受賞).

 

 ごく最近肺の恒常性や生体防御において重要な役割を担う肺胞マクロファージで高発現する新しい免疫調節分子を発見しました(Kasamatsu et al., in preperation,第50回免疫学会総会ベストプレゼンテーション賞受賞).現在,この分子の機能解析も精力的におこなっています.

 

 現在所属している原研究室では,結核菌感染におけるマクロファージ研究もスタートしました.一日も早く,エキサイティングな研究内容を発表出来るように頑張ります!

 

《自然免疫細胞による抗がん免疫応答に関する研究

 

 合成二本鎖RNAは強力なアジュバント(免疫賦活剤)であり,NK細胞やT細胞による強い抗腫瘍効果を引き起こします(Kasamatsu et al., Immunobiology. 2014).私たちは生体内におけるNK細胞の活性化に着目し,①CD8α陽性樹状細胞とマクロファージがNK細胞の活性化を担うこと,②IRF-3-dependent NK-activating molecule (INAM)が樹状細胞やマクロファージを介したNK細胞の活性化に重要な膜分子であることを明らかにしました(Kasamatsu et al., J Immunol. 2014).

 

《自然・適応免疫系の進化・多様性に関する研究》

 

 ヒトやマウスではT細胞レセプター(TCR)やB細胞レセプター(BCR)が抗原レセプターとして機能し,天文学的な種類の抗原を認識することが出来ます.一方,原始的な無顎脊椎動物であるヤツメウナギやヌタウナギではTCRやBCRと同様に遺伝子の再構成によって多様性を獲得するVariable lymphocyte receptor(VLR)が抗原レセプターとして機能します.そこで,私たちはVLRの遺伝子基盤を整備するために,①少なくとも3つのVLR遺伝子が存在し(Pancer et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2004; Kasamatsu et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2010),②その内2遺伝子は同一染色体上に存在することを明らかにしてきました(Kasamatsu et al., Immunogenetics. 2007).

 

 加えて,自然免疫関連遺伝子(TLRやそのシグナル伝達因子など)の網羅的探索から,無顎脊椎動物はヒトやマウスの適応免疫系を活性化するサイトカイン遺伝子群を多く欠損していることを明らかにしました(Kasamatsu et al., Dev Comp Immunol. 2010).これらの結果は,脊椎動物には分子基盤を異にする2種類の適応免疫システムがあることを示しています(Kasamatsu J., Microbiol Immunol. 2013).